第81章 薄紅に見る夢
「あほか。結婚なんてするわけねーじゃん。だって水琴は海賊だぞ?」
「元、だろ?この島にも馴染んできてるみたいだし、年頃なんだからそんなことだってあるかもしれないだろ」
「ありえねーって。だってアイツは__」
仲間のところに帰りたがっているんだから、と言葉を続けようとして、エースははっと口を噤む。
__大人になったら、おれが仲間のところに連れて行ってやるよ
そう約束した一年前。
楽しみにしてると笑った水琴は、はたしてエースが大人になるまで本当に待っていてくれるのだろうか。
一年。初めて水琴と出会ってからエースは身長も体重もぐんぐんと増えた。
あの頃に比べれば鉄パイプの扱いだって上手くなったし、体力も随分ついたと思う。
けれどそれでも、大人になるにはまだずっと遠い。
水琴は海賊だ。
この海をどこまでも遠くへ駆けていくことができる、自由な風。
結婚と聞いてもピンとこない。
だが、仲間を探しに一人海へ出るかもと思うと、エースの心はざわりと震えた。
そんなエースの胸中を知る由もないサボは、「結婚は言い過ぎかもしれないけど」と前置きをして魚の串を一本取る。
「様子がおかしいのは事実だろ?ちょっと後をつけてみないか」
「後を?」
「もしかしたら何か一人で心配事抱えてるのかもしれないし。エースも気になるだろ」
「そりゃあ……」
「じゃあ決まりな!」
サボの決定にエースは曖昧に頷く。
もし。
もしも水琴の行く先に、自由への道があったとしたら。
そうしたら自分はどうするのだろう。
答えの出ない問いを胸に抱え、エースはその日なかなか寝付けなかった。