第81章 薄紅に見る夢
「あれは、恋だな」
とある年、春の昼下がり。
厳しい冬が空け、今年も命の芽吹きが森のそこかしこで顔を覗かせ始めていた。
森の恵みはいたるところにある。木々の合間にはふっくらと丸みを帯びたキノコが生え、草木の間からは脂ののったウサギが飛び出してくる。
だいぶ暖かくなった日光を浴びながら、腹を空かせた二人はそんな森の恵みを享受しようと川へやってきていた。
どちらが大きい魚を採れるかと競いながら釣り上げた魚は今、焚火の上でこんがりと焼かれ美味しそうな匂いを漂わせている。
そろそろ食べごろかと一本取り口に運ぼうとしていたエースは、突然訳知り顔で呟いたサボの言葉に魚に齧り付こうとしていた口をぽかんと開けた。
「は……?」
「だから、恋だよ恋。最近水琴、様子がおかしいだろ?」
「そうかァ?」
「そうだよ!物憂げにため息ついたり、ぼーっとしてたり」
「ぼーっとしてんのはいつものことだろ」
「確かに。いや、じゃなくてさ!」
「恋ねェ……」
よく分からない感情にエースは首を捻る。
確かに最近の水琴は少しぼんやりとしていることが増えているように思う。
しかし仕事はきっちりとこなしているようだし、エースたちと接する際に不自然な点は見られない。
単に疲れてるだけなんじゃねぇの、とエースはあまり関心なさそうに食事を再開した。
そんなエースの様子にお前は心配じゃないのかよ、とサボは真剣な表情でエースに迫る。
「もし水琴が突然『結婚する』とか言い出したらどうするんだ?」
「結婚んん??」
何故そこまで話が飛ぶのか。その思考回路に疑問を覚えエースは傍らの相棒をまじまじと見つめる。
ふざけているのかと思えばその表情は真面目だ。冗談を言おうとした訳では無いらしい。