第76章 海賊
「……悪かったな」
台車に揺られながら、エースは呟く。
「弱ェなんて言って。お前、強かったんだな」
「弱いよー。私の知ってる本物の海賊は、もっともっと強いんだから!」
「でも、あいつら一瞬でやっつけてたじゃねェか」
「たまたまだよ。能力者って知らないで向こうは油断してたし。
それに遠距離の攻撃手段がなかったら、いくら能力者でも私じゃあんな大人数相手に立ちまわったりできなかったって」
それにね。
水琴の柔らかな声がエースの耳をくすぐる。
「本当の強さっていうのは、力や能力なんかじゃなくて、心なんじゃないかな」
「……わかんねェ」
「いつか分かるよ。エースなら」
日が落ちていく。
本当の強さが、心だというのなら。
きっと、やはり水琴は強いのだろうとその小さな背を見つめエースは思った。
***
「__よし、決めた」
ある日。
海の見える崖に水琴と共にやってきたエースは水平線を見つめ呟く。
「何を?」
「おれは、海賊になる」
突然のエースの宣言に水琴は目を丸くする。
「え、なんでまた急に」
「いつかこの国を飛び出して広い世界に行くって決めてたんだ。どうせ飛び出すなら、おれは海賊として海に出る!」
「海賊は嫌いじゃなかったの?」
「今までのような奴らはな。だけど、水琴は違うだろ」
振り返りにやりと笑うエース。
その笑みは、どこか遠い未来の彼と重なる気がした。
「おれはお前みたいな“本物”になる。この海で、どんな運命にも逆境にも屈しない、本物の海賊になってやる!」
「……私が、本物?」
まさか、と水琴は小さく呟く。
この時代に来たばかりの頃、マルコが言っていた話が頭をよぎる。