• テキストサイズ

【ONEPIECE】恵風は海を渡る【エース】

第76章 海賊






 そこで初めてエースは恐怖を覚えた。
 自分がいかに命の危険に晒されても覚えたことのない感情に、エースは動揺する。

 自分の不始末で、自分が死ぬのは別にいい。
 けれど自分のせいで、誰かが死ぬのは耐えられなかった。


 __エースが海賊を嫌いで、弱い私のことを嫌いでも。
 __私は、エースが好きだよ。


 生きていてもいいのか、そんなことすら分からない自分を好きだと言ってくれた。
 傷だらけになったエースを見て、憤ってくれた。


 __エース
 
 
 初めて向けられる、純粋で真っ直ぐな好意はくすぐったく、そして存外心地良く。
 暗闇にいたエースの心を優しく照らし、温めてくれた。

 そんな水琴が、今エースの前に立ち海賊と向き合っている。


 熊に悲鳴をあげて、尻もちなんかついていたヤツが。
 なんで、どうしてと浮かぶ疑問への答えをエースは知らず。
 

 ただ、頼むから逃げてくれ、と思いを込めてエースは声を振り絞る。



 「弱いくせに何言ってんだ!殺されるぞ!」
 「……エース。確かに私は弱いよ」


 背を向けたままの水琴は必死の思いで声を張るエースへ優しく声をかける。
 その声はいつもの水琴のものだ。暖かい、陽だまりのような、争いとはまるで無縁のようなそれ。


 「怖がりだし、鈍くさいし、すぐに叫ぶし、逃げようとするし。
 
 ___でもね」



 ボタンを外しローブを脱ぎ捨てる。

 露になった背中は小さいが、もっと大きなものを背負っているようにエースには見えた。





 「大事なもの傷つけられて笑っていられるほど、私も負抜けてるつもりなんて無いの」





/ 1122ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp