第76章 海賊
「う~~ん……」
台所にある食材を眺め水琴はうなる。
「今日は何にしようかな」
ダダン一家の台所を取り仕切るようになって一ヶ月半。
肉が目立つ食卓に栄養が偏ると野菜や果物を取り入れてきた水琴だったが、そろそろレパートリーもなくなってきた。
「思い切って中華とか」
「水琴、何悩んでるんだニー?」
悩む水琴の後ろからにょきっとドグラが現れ同じように食材を眺める。
「ちょっと今夜の夕飯のレシピを考えてて」
「まだ決めてないなら鍋が良い二ー。今夜は冷えるって聞いた二ー」
「鍋!いいですね。まだやったことないし」
鍋ならば傷みそうな食材も処理できるし、大勢でつつくのも楽しい。
ドグラの提案に水琴は顔を輝かせる。
「そうと決まれば、私買い出しに行ってきます!」
「一人で大丈夫か二ー?」
「大丈夫です。帰りは台車借りるし」
手早く出掛ける準備を済ませ、水琴は家を飛び出していった。
森へ分け入り、誰もいないことを確認して地を蹴り崖を飛び降りる。
ふ、と水琴の姿がかき消えた。
***
「いい鍋が手に入ってよかった」
ガラガラと台車を引きながら水琴は上機嫌だ。
その鍋の中には大量の野菜が入れられている。
「キノコは森で採ればいいし、肉はエースが調達してくれるし。お米もパンも買ったし」
夕飯を思い水琴の頬が緩む。
きっと楽しい鍋になるだろう。
「ん?」
端町から大門へ抜けようとする時、ふと裏道から騒がしい物音が聞こえた。
「なに、喧嘩……?」
グレイターミナルに近いここ、端町ではよくあることだ。
それにしては剣のぶつかり合うような物騒な音も聞こえる。
巻き込まれる前にさっさと行こうと足を踏み出そうとした水琴の耳に聞き慣れた声が聞こえた。
「……!!」
途端に水琴は裏路地へと駆けだす。
「今の、エース……?!」
まさか、何かあったのか。
湧き上がる不安を押し殺し、水琴は駆けた。