第75章 山賊見習いと縮まる距離
「エースどうしたんですか?」
「知らないよ。どうせどっかで暴れてきたんだろ。いつものことだ」
「でも、あんな傷だらけでっ」
「放っときな。勝手に手当てすんだろ」
我関せずというようにぐびりと酒を飲むダダンに軽く怒りを覚える。
「そんな言い方……!」
「まーまー水琴。エースは誰にも手当てさせねェんだ」
「お頭も何度も手当てしようとしたんだけど、その度に返り討ちになってるんだニー」
「余計なこと言うんじゃねぇよお前ら!!」
「ダダンさん……」
照れ隠しのように怒鳴るダダンを見て勘違いしたことを心の中で詫びる。
そうだ。彼女は口は悪いが優しい人だ。
言葉の通り捉えてしまった自分を水琴は恥じた。
「__分かりました」
水琴はにっこりとほほ笑む。
「ダダンさんが放っとくなら、私が手当てします」
「水琴?!」
「止ニとけ!怪我してる時のエースは気が立ってるんだ。怒鳴られるだけじゃすまニィぞ!」
「大丈夫です。私もそこそこ頑丈なんで!」
「……好きにしなよ」
「お頭?!」
「はい、好きにします」
薬箱借りますね、と声を掛けエースの部屋へと向かう。
静かに扉を開ければエースが一人背を向け傷の手当てをしていた。
血に染まるシャツは脱ぎ棄てられ、痣や引っかき傷の出来た小さな背中が痛々しく晒されている。
「背中大変じゃない?」
声を掛ければびくりとエースは振り向いた。
「何入って来てんだ!」
「手当てしようと思って」
「余計な世話だ。触るんじゃねェ!!」
近寄る水琴へ向き直り、いつでも攻撃態勢に入れるよう身構えるエース。
あまり刺激しないように、そっと水琴は手を伸ばした。