第75章 山賊見習いと縮まる距離
「いいから。手、出して?」
「おれに触んな!」
その手を払うようにエースが腕を振るう。
じわりと雑に巻かれた包帯が赤く滲み、思わず水琴は眉を寄せた。
「暴れたら傷が開くよ。また血が……」
「どうせてめェも床が汚れるとか言うんだろ!勝手にやるからおれなんて放っとけよ!!」
「___床?」
伸ばしかけた手がぴたりと止まる。
床?床だって?
「床なんてどうでもいいでしょうがっっ!!!」
この世界に来て初めてと言っていい剣幕で怒鳴った。
自分でもこんな大声が出せたのかと驚く。
驚いたのはエースも同じだろう。初めての水琴の様子にエースは一瞬目を丸くし、口をパクパクとしながら水琴を見上げた。
「んな……」
「放っておけって……?こんな傷だらけで、放っておけるわけないでしょう……っ」
「………!」
そう静かに呟けば、息を呑むエースと目が合う。
あぁ。分かった。
どうしてエースのことがこんなに気になっていたのか。
この目は、同じなのだ。
施設に来たばかりの、小さな子ども達と。
誰も信じられなくて、全てが敵に見えて、自分の存在に自信が持てなくて。
本当は縋りたいのに、縋る方法を知らない。
彼らの姿と、今のエースの姿が重なる。
「__手、出して」
ゆっくりとエースの手を取る。
さっきまでのように暴れることはなく、その手は静かに水琴の手に収まった。