第75章 山賊見習いと縮まる距離
「………」
「………」
片や不機嫌。片や満面の笑み。
相反する二つの表情が無言のまま対面している図は見ている側からすると違和感半端ないだろう。
「なんでてめェがここにいんだ!!」
「これから山賊見習いとしてお世話になります。水琴です」
よろしくね、と手を差し出せばばしんと叩かれた。
「ダダン!」
「もう決まったことだ。ちょうど雑用の手が足りないって思ってたとこだしね。エース!てめぇの意見は聞けねぇよ!」
「……ちっ」
エースはそのまま部屋へ向かう。
叩かれてじんじんした手をひらひらと振りながら水琴はエースが消えていった部屋を見つめた。
「嫌われてるなぁ…」
「気にすんじゃないよ。あいつは慣れない相手にはあんな感じさ。ったく可愛げのない」
それより仕事だ!きりきり働きな!というダダンの声にはぁいと返事をする。
ダダン一家の隠れ家を見つけて三日後。
サバイバルにも限界が来ていた水琴は山賊見習いとして世話になることにした。
未来のことはまだ少し気になるが、動かなければ何も始まらないのは事実。
何かあればその時に考えよう、と水琴はいったんその問題を脇に追いやることにした。
それからは結構あっという間に月日は流れた。
ダダンが言っていたように、掃除、洗濯、料理、やることはたくさんあった。
雑用の合間を縫って仲間の姿も捜すが最初のマルコ以外見つけることは出来ず。
やはり一人でどうにかしないといけないらしいと少し落ち込んだりもしたが、忙しい日々のおかげでなんとか水琴は自分を保っていられた。