第74章 動き出した運命
「私ね、迷子なの」
ついさっき決意を固めたのでもう狼狽えたりはしないが、それでも寂しいものは寂しい。
「帰りたくても、帰れないんだ」
「どうせ弱ェから置いてかれたんだろ」
「ひどいなぁ」
エースの言葉に苦笑する。
でも案外似たようなものかもしれない。
弱いくせに強い彼らと一緒にいたがる私を戒めるために、世界が私をこの時代へ飛ばしたのかもしれない。
あぁ、駄目だ。弱ってる。
立ち直ったと思っていたがどうやら勘違いだったらしい。
完全に落ち込んでしまう前に思考をシャットアウトする。
「……あれ」
いつの間にか台車は完成しており、熊を固定しているところだった。
「もう行っちゃうの」
「これ以上海賊と一緒にいられるか」
「ねぇ聞いたでしょ。私迷子なんだって」
「知るかよ。ついてくんなよ」
ついてきたらぶっ飛ばす、と睨まれる。あの目は本気だ。
エースは振り返らず、台車を引き去っていった。
ぽつんと一人水琴は取り残される。
こっそりついていこうかとも思ったが、野生並みの勘を持つエースのことだ。水琴のお粗末な尾行では簡単にばれてしまうだろう。
「……ついていかなければいいんだよね」
そっと風を飛ばしエースへと纏わせる。
これがどんな結果に繋がるのか分からない。
過去に干渉することで、帰る未来が歪んでしまう可能性もある。
けれど。
__海賊が、自由を恐れるな。
願いを込めて、水琴はそっと風を詠む。
「………見つけた」
映ったのは山奥の掘立小屋。