第12章 音楽家誕生
「エースが礼拝堂の管理者に掛けあって譲ってもらったんだってよ。親父に許可も取ってこっそり運び込んでおいたのさ」
「エースさん…本当に?」
横から現れたイゾウの言葉に追い付いたエースを見つめる。
水琴の言葉にエースは照れくさそうに頬を掻いた。
「なんか知らねェけど、大事な思い出があったんだろ。それに」
「そうですけど。私、何も言ってなかったのに…」
「言わなくても分かるさ。あんな目してりゃあ」
水琴の気持ちを察して、あの後わざわざ町まで戻りフリッツに掛けあってくれたのか。
水琴にばれないように、こっそり運ぶ手配までして。
エースの心遣いにじわりと涙がにじむ。
「水琴!せっかくだから何か弾いてよ」
ハルタの催促に水琴はオルガンの前に座る。
「…それでは、拙い演奏ですが」
水琴は奏でる。
その周りには、賑やかなクルーたち。
「良い曲だな…」
「水琴!次は海賊の歌弾いてくれよ!」
「ばーか。水琴が知ってるはず無いだろが」
「……あ。これなら」
クルーの声に水琴は原作で有名なあの曲を奏でる。
「お!良いねェ!」
「ビ~ンクスの酒を♪」
見知った曲が流れクルーは段々と騒ぎだす。
食堂はいつの間にか宴会会場となっていた。
「…ったく。まだ昼だっていうのによい」
「グララララ!良いじゃねェか。せっかくの新たな音楽家の誕生記念だ」
船長室まで聞こえる歌声と曲に、白ひげは耳を傾ける。
「……良い音じゃねェか」
「エースさん」
「ん?」
「ありがとうございます」
騒ぐクルーの中心で、オルガンを奏でながら水琴は笑う。
この日、モビーディック号に新たな音楽家が誕生した。