第74章 動き出した運命
「___よし」
むくりと水琴は身体を起こす。
いっぱい泣いた。
弱音も吐いた。
後は、前を向いて進むだけだ。
マルコは絶対に帰れると言った。
なら、絶対に私は帰れる。
いや、帰る。
「こんなとこで、諦めるわけにはいかないの…」
何のためにこの世界を選んだのか。
彼らと一緒に生きるためだ。
なら、泣き寝入りしている暇なんて無い。
「まずは人を探そうかな」
もしかしたら、さっきのマルコみたいにこの世界へやって来ている人がいるかもしれない。
水琴は森の中を歩く。
季節は初春頃だろうか。
まだ若干霜の残る草を踏み、湿った土の間からは可愛らしい花がのぞく。
こんな状況でなければピクニックでも楽しみたいところだが、そんな余裕水琴には無い。
どれだけ歩いただろうか。行けども行けども人の気配の無い様子に心身ともに疲弊してきた水琴は唐突に立ち止まり空を仰いだ。
「ずっと思ってたけど、この山広すぎ!」
溜まっていた鬱憤を晴らすように吐き出した声に鳥がばさばさと飛んでいく。
再び静けさを取り戻した森で、水琴は一人溜息を吐いた。
「やっぱ風使おう……」
気分転換も兼ねて散策していたが、効率が悪い上に孤独を再認識するようで精神衛生上にも良くない。
早々に徒歩での探索を諦めた水琴はそっと目を閉じた。
「__風詠み」
足元から風が生まれ、山の中を駆けていく。
水琴の目蓋に山の景色が目まぐるしく映っては消えていった。
どこかに何か気になるものはないかと目を走らせる。