第74章 動き出した運命
無言で渡される酒を受け取りくっと煽る。
エースが選んだものとしては珍しく、喉を甘さと酸味が抜けていった。
よくナースたちが好んで飲んでいたことを思い出す。
「甘ェな」
「だろ」
失敗したなァと呟くエースの言葉からは、それ以上の意味が込められている気がした。
顔を向ければその視線の先には未だサッチに絡まれている仲間の姿がある。
「……お前にはなんか夢でもあるのかよい」
「ん?夢?」
さっき話していた話の内容が原因かと振ってみたがエースはきょとんと目を丸くしマルコを見た。
どうやらただ視線を向けていただけで注目してはいなかったようだ。
「いや、別になんでも」
「夢ねェ……そうだな」
話題の選択を誤ったかと打ち消そうと口を開いたマルコだったが予想外に食いついてきたエースの声に口を閉ざす。
何かを思い出すように虚空へ視線を向けるエースの声は心なし先ほどよりも笑みを含んだものであったような気がしたからだ。
「夢、というのとは違うが。会いたいやつがいる」
「会いたい?なんだ、誰か探してんのかよい」
「探してる?んー、そうだな。ちょっと違うか?」
どっちかってーと、待ってる、だな。
「待ってる?」
「おう。この海の先で、また会おうって。そう、約束した」
そう呟くエースは第一印象よりもずっと大人びたもので。
血気盛んな少年だとばかり思っていたが、どうやらそれだけではないらしい。
いや、きっと最初はそうだったのだろう。
あのぎらぎらとした殺気を放つ、抜き身のナイフのような姿が元々の彼だったのだ。
それを、誰かが変えた。
きっと、約束したという誰かが。