第71章 世界を照らす一筋の光
「見たことあんな、それ」
「えっ、嘘どこにあった?」
見逃していたのかと水琴はエースに場所を尋ねる。
しかしエースは違う違うと手を振った。
「この島じゃねェよ。ガキの頃。まだコルボ山にいた時だ。あれも綺麗だったな」
「あ、そうなんだ」
一瞬期待するも返る答えに気持ちは萎む。
だが元々咲く季節では無いのだ。無いのは当たり前だろう。
気持ちを切り替え、エースの故郷の桜について話を振った。
「エースの故郷にも桜があったんだね」
「あァ。一本だけだけどな。確かに白っぽい色で五枚の花びらだったぜ」
「そっか、いいなぁ。私も見てみたかったな」
この桜も美しいが、やはり馴染み深いのはあの一斉に咲く五弁の桜だろう。
少し期待していただけに残念な気持ちは隠せず、水琴は寂しさを滲ませ笑った。
「見れんだろ、いつか」
「え……」
「新世界も広いしな。航海を続けてればどこかにその桜だってあるさ」
「あ、そういう」
びっくりした。一瞬コルボ山の桜を見に行く機会があるという意味かと思った。
今いる場所を考えればそんな訳はないとすぐに分かるのに、おかしな勘違いをするものだ。
__でも。
でも。そういつか。
見てみたいと思った。
海賊になる前のエースが綺麗だと思った、その桜の木を。
「そういや酒場で聞いたんだが」
想像の中の桜に想いを馳せていると横からエースがふと思い出したように声を上げる。
「西地区に花見をしながら入れる温泉施設があるらしい」
「行きたい!」
「言うと思った」
間髪入れぬ水琴の挙手を伴う返答にエースはぶはっと笑う。
「まァせっかくだしな。ゆっくり温まってから宿行くか」
「やった!じゃあそろそろ行こっか」
公園を後にし温泉へと向かう。
心身共に癒され、満足した二人はあとは明日の航海に備えてゆっくり休もうと宿に向かったまでは良かった。