第71章 世界を照らす一筋の光
「水琴、ちょっと来いよ」
いつの間に傍を離れていたのか、少し離れた木々の間からエースが手招きする。
「エース?どうしたの?」
「いいからこっち」
水琴が走り寄ればエースは林の奥の方へずんずんと進んでいってしまった。
遊歩道から逸れてしまうことに慌てるも、止まる気配のないエースの背中に見失っては大変だと水琴は追い掛ける。
しかし一体どうしたというのだろう。
「ちょっと、どこまで行くの?」
「もうすぐだって。……ほら」
急に視界が開け柵の向こうに青空が見える。
どうやら丘の切れ目らしい。この公園に辿り着くまでにだいぶ坂を上ってきたことを思い出す。
「見てみろよ」
先に柵の近くに立っていたエースが水琴を振り向き呼ぶ。
一体なんなんだろうと訝しみながら水琴はエースの傍へと寄った。
「__う、わ……」
開けた視界いっぱいに広がるのは鮮やかな桃色の海。
下から見上げるのとはまた異なる、美しい景色が広がっていた。
一つとして同じ色がないことがよく分かる、波を打つように微妙に色合いを変える桜の木に水琴は言葉を失う。
「すげェよな。海みたいって思わねェ?」
自分と同じ感想を楽しそうに言うエースに、同じ気持ちを抱いたと知り嬉しくなる。
「思う思う!すごいね、こんなにたくさんこの時期に咲いてるなんて!」
「こりゃ観光客が押し寄せるのも頷けるな」
そういえば別の種類はあったか?と尋ねるエースにかぶりを振る。
「ううん。この島にはこの種類だけみたい。できれば見てみたかったんだけど」
「水琴が探してるのはどんな桜なんだ?」
「花びらはこんなにたくさん無くて、五枚なの。色ももっと薄い白っぽい感じで__」
こんな形、と手のひらに指で図を描く。
それを覗き込み見ていたエースがあぁ、と見当がついたように声を上げた。