第12章 音楽家誕生
「あの、最後ってどういう…」
「ここは明日で取り壊されるんです。もう大分老朽化していたもので、隣町の礼拝堂と合併することになりまして」
このオルガンももう廃棄する予定だったんです。とフリッツは語る。
「そんな……」
「最後にお別れをと思い足を運んだんですが…あなたに会えてよかった」
にこりと微笑むフリッツに何も言えない。
オルガンに目をやる。ようやく見つけた故郷との接点が明日無くなってしまうと知り、水琴の心は急速にしぼんでいった。
しかしどうすることも出来ない。水琴も明日ここを発つのだ。
「よければもう一曲弾いていただけますか?」
「あ、はい…」
フリッツに言われ、再び水琴はオルガンの前に座る。
一息吸い、最後となるだろう曲を心を込めて弾いた。
***
外へ出ればもう日が傾いていた。
フリッツへ礼を言い、二人はモビーへと戻る。
「おー。お帰りお二人さん」
「ただ今戻りました」
迎えてくれたサッチへの挨拶もそこそこに、水琴は部屋へ引っ込む。
「…どうしたんだ、ありゃあ」
「__なァサッチ。ちょっと相談なんだけどよ…」
一緒に戻ったエースは首を傾げるサッチへ耳打ちする。
「はぁ………」
水平線を見つめながら水琴は溜息をつく。
今頃あの礼拝堂は取り壊されてしまっただろう。
分かってはいるが、寂しい思いは消えない。