第12章 音楽家誕生
「あ………」
そこは礼拝堂だった。
高く作られた天井
正面のステンドグラスからは光がきらきらと零れ室内を柔らかく照らす。
そして部屋の隅に見慣れたものを見つけ、水琴は思わず駆け寄った。
「オルガン……」
そっと手を置く。
施設にいた頃はよく空いている時間に弾いたものだ。
懐かしさにじんと胸がしびれる。
「弾けるのか?」
「少しなら」
「弾いてみろよ」
エースに促され、どうせ誰もいないし…と水琴は席に着く。
思い出すようにじっと目を閉じてしばらく。鍵盤に軽く指を添えると、水琴は奏で始めた。
静かな礼拝堂に水琴のオルガンの音が響く。
弾きながら水琴の心は遠い故郷へと飛んでいた。
オルガンを弾く水琴の周りには幼い兄弟が集まり、楽しそうに賛美歌を歌う。
__お姉ちゃん!次は清しこの夜弾いてー
__待ってね。今……
「…綺麗な曲だな」
ぽつりと呟かれたエースの言葉に瞬く。
一瞬揺らぎかけた視界がゆっくりとクリアになった。
「賛美歌です。昔よく弾いてたんですよ」
「へェ。なんかこう、聴いてると安らぐな」
「そう言われると嬉しいです」
くすりと微笑む。
キィ、と軋む音がして二人は同時に扉の方を向いた。
「…失礼。驚かせてしまいました」
そこにはゆったりとした服に身を包んだ男性が立っていた。
この建物の関係者かと水琴は慌てて立ち上がる。
「こちらこそ!無断で入ってしまってすみません!」
それにオルガンまで…と謝ればいいんですよと首を振られる。
「最後に弾いてもらえて、そのオルガンも本望でしょう」
「最後……?」
「挨拶が遅れました。わたしこの礼拝堂を管理していたフリッツと申します」
「あ、水琴です」
「エースだ」
どうぞ、と椅子を勧められ二人は座る。