第71章 世界を照らす一筋の光
にやりと笑うエースの前方で海が盛り上がった。
水飛沫を上げながら飛び出してきたのは巨大なサメ。
鋭利な刃が一飲みにしようと迫るのに水琴は悲鳴を上げかける。
「横に避けろ!!」
エースの声に水琴は咄嗟に縄を操った。左右に分かれた二人の間にサメが落ちる。
波に揺られ転覆しそうになるのをバランスを取り阻止しながら、水琴は海面を動く巨大な影を恐々と目で追った。
「見てるだけだと食われるぞ」
「えっ?!」
「言ったろ。練習なんだからお前がどうにかしないと」
確かに、今後一人で海に出る可能性もゼロではない。
これくらいの障害、乗り越えられなくてどうする。
「なんかあったらフォローしてやるから。思い切りやれよ」
「うん……!」
いったん距離を取ったサメは再びこちらへと近づいてきた。
勢いをつけ飛び掛かってくるつもりなのだろう。
水琴もタイミングを計りながら腕をそっと掲げる。
再びサメが水面へ跳ねる。
黒々と赤い口腔へ向け、水琴は腕を突き出した。
「__突風!」
ガツン!と大きな衝撃がサメの鼻先を襲う。
急所に受けた目に見えない攻撃にサメは混乱したようだった。
身を捩り海中へ沈むと、一目散に離れ逃げていく。
「やった……!」
「うまいじゃねェか。今みたいに襲われることもあるからな。撃退するか撤退するかは慎重に見極めろよ」
今はただのサメだったからよかったものの、海王類なら逃げの一手だろう。
無事に逃げられるかは微妙だが。
「逃走用の目くらましの技とかも考えよっかなぁ」
「いいんじゃねェの。折を見て特訓だな」
それからは何も現れることも無く、穏やかな航海が続いた。
次第に頬に当たる風はひんやりとし始め、跳ねる水は冷たさを増していく。
冷えてきた空気に水琴は震えた。