第70章 一進一退……?
「なァ。別におれこれでいいって」
「いーや、良くない!勘違いするな。お前のためというよりは水琴ちゃんのためだ」
せっかくのデート、ロマンチックに過ごしてもらいたいじゃねぇか!と燃えるサッチにどうも温度差を感じてしまう。
そんなに大事かねぇ、と呟くエースの前にずいと服が突き付けられた。
「ほら、これ着てみ」
言われるがまま着替える。
白のインナーに黒のカジュアルジャケット。
ボトムスはジャケットと同系色のすっきりとしたシルエットに変わり、靴も革靴まではいかないが、紐のないシンプルな形で大人っぽさを感じさせる。
「……おォ」
完全に見違えた様子にエースはすげぇ、と素直に感心した。
持ち物は全てエースの私物だ。それが選ぶ人間が違うだけでこうも様変わりするものなのか。
仕上げにといつもの赤い数珠繋ぎの首飾りは外され、細い革紐のドックタグをかけられる。
オレンジのテンガロンハットを黒へと変えれば、そこにいたのは”火拳”ではなく、年相応の青年だった。
「どうよ」
「お前すげえな、サッチ。オシャレってもっと硬っ苦しいもんだと思ってたけど、動きやすいし」
「無理に着込むんじゃなくて、人それぞれ似合ったもん着るのがオシャレなんだよ。お前ももうはたちなんだから、それくらいは知っとけ」