第70章 一進一退……?
「まァ、普通に過ごしてりゃそうそう巻き込まれることもねェよ。大部分は争いを避けて楽しむために来てる奴らだ。心配すんな」
わいわいと盛り上がる三隊長を尻目にエースは安心させるよう付け加える。
少し不安そうな様子だったが、エースの言葉を聞き水琴はふわりと笑った。
「そっか。楽しみだね、エース!」
キラキラとした眩しい笑顔に目を細める。
「あァ。そうだな」
「水琴。ちょいと仕事手伝ってくれるかよい」
「あ、はーい」
マルコに呼ばれじゃあまた、と水琴が席を立つ。
去っていく背中を眺めていると、三方向から不躾な視線を感じた。
「……なんだよ」
「はァ~。いいねェ、青春。甘酢っぺェじゃねェのほんと」
「最初は狂犬のように親父に噛み付いてたお前がねェ」
保護者のような視点でしみじみと呟くサッチとイゾウにエースはうっせぇ、とぶっきらぼうに返す。
昔の話はするな。
「だけどさ。エースどーすんの?」
「なにがだよ?」
ハルタの突然の問いかけに疑問で返せばあれ、聞いてなかった?と首を傾げる。
「今回、島に降りるの奇数隊と偶数隊で分けるらしいよ」
「………え」
「いつものメンツだと、見事にマルコの隊だけ初日なんだよねー。つまんないの」
初耳の情報にエースはぎしりと固まる。
水琴は一番隊隊長補佐。
エースは二番隊隊長。
つまりは、そういうことで。
「__うっそだろ?!」
「別に嘘だって思っててもいいけど」
「マルコは!!」
「さっき水琴ちゃん呼んでたから、自室じゃねェの」
「行ってくる!」
慌ただしく去っていくエースの背を見送った二人はにこにこと手を振るハルタへ目を向ける。
「……ちなみにそれどこ情報?」
「俺情報」
「えげつねェからかい方しやがるなァ」
「はっはっは。あー楽しい」
これからもハルタに振り回されるだろうエースの未来を思い、二人はほんの数秒だけ同情した。