第11章 現実
「で、何考えてたんだ」
しばらく他愛のない話を楽しみ、会話が途切れた頃エースが切り出した。
「さっき、難しい顔してたろ」
なんでこういう時ばっかり鋭いんだろう。
「大した事じゃ、ないんですけど」
ジョッキをいじりながら視線を向ける。その先では戦いを乗り越えたクルーたち。
「みなさんがいつも楽しそうな理由が分かったような気がして」
ある者は浴びるように酒を飲み
ある者は仲間と肩を組み陽気に歌い
ある者は踊り騒いでいる。
「みんな、一日一日を全力で生きてるから、だからあんなにめいいっぱい笑えるんですよね」
失礼だったなと思う。
ここが漫画と似ている世界だというだけで、どこか夢物語のような気がしていた。
ここにいる人はみんな“生きている”というのに。
「みなさんに近づきたいとか言って、本当に理解しようとはしてなかったんだなぁって、ちょっと落ち込んで」
あの宴の中に、私もいていいのかと。
声をかけてもらうたびに、いつも心の片隅で感じていたこと。
「なら、これから全力で生きればいいだろ」
ぽすんと軽い音と共に視界が塞がる。
「気付けて、変わりたいと思ったなら、そこからまた進めばいいんじゃねェの」
テンガロンハット越しにエースの大きな手が水琴の頭を叩く。
「…私、変われるかな」
「出来るだろ。根性あるしな」
ぐびりと決意と共にジョッキを飲み干す。
いつかこのお酒を心から美味しいと思えるように。
飲み干したお酒はほろ苦い味がした。