第69章 ハリネズミのジレンマ
水琴がモビーディックに帰還し数日。
ようやく戻った幸せな日常をエースは噛み締めていた。
はからずも想いを伝え晴れて水琴と相思相愛になったこともあり、エースの心は晴れ晴れと輝いていた。
今ならどんなに無茶なマルコの要求も軽々とこなせる気がする。
だからと言ってまた遣いに出るのは勘弁したい。ようやく帰ってこれたのだ。しばらくはのんびり過ごしたい。
そういやもうすぐ島に着くって言ってたな、とエースは航海士の話を思い出す。
早く帰ってくるために、前半の海はあまりゆっくりと島を回れなかった。
久しぶりに純粋に観光を楽しむのもいいな、とエースは一人頷く。
好奇心旺盛な水琴のこと。きっとあのキラキラとした笑顔でエースが思いもよらないような世界を見せてくれるだろう。
今までも二人で島を回ったことはあるが、想いが通ってからは初めてだ。
初デートになんのかな、と柄にもないことを考える。
噂をすれば。前方で二番隊クルーと話し込む水琴を見つけた。
何やら楽しそうな雰囲気に興味半分、面白くないの半分でエースは二人へと近寄る。
「何話してんだ?」
「あァエースか。今水琴と次の島について話してて……」
クルーに目を向け、再び水琴の方へと戻したその間僅か数秒。
風のように(風だが)姿を消した水琴に、クルーもエースも顔を見合せたのだった。