第69章 ハリネズミのジレンマ
「ぜってー避けられてる……」
最初はタイミングが悪かったのだと思った。
だがエースが話しかけようとすれば用事を思い出したと駆けていき、隣に座ろうとすれば席を立ち、曲がり角で不意をつけば風となり消えてしまう。
これが避けられてると言わずしてなんと言おう。
「喧嘩でもしたのか?水琴ちゃんがあんな風に避けるなんて滅多にないぞ」
机に身体を預け不貞腐れているエースの前に来客用のカップを置き、サッチは向かいへ座る。
「してねーよ」
「何かきっかけとかないのかよ」
「きっかけ……」
特に思い当たらずエースは首を捻る。
モビーに戻ってくるまではいつも通りだったと思う。
キスやハグといったスキンシップには照れが見えたものの、目が合えば照れくさそうに微笑み、受け入れてくれた。
モビーと合流した日だって態度は変わらなかった。
それなのに、次の日から急に様子が変わったのだ。
「気付かない間に何か気に障ることでもしちまったんじゃねェかよい」
ようやくくっ付いて浮かれてんじゃねェのか、と冷めた調子で付け加えるのは書類を取りに来たマルコだ。
「なんだよマルコまで!そもそも付き合い始めたからって、何も……っ」
ムッとして反論するため立ち上がるも、勢いは最初だけで目を泳がせながらエースはゆっくりと座り直す。
「__なくは、ねェけど…」
「お前、水琴ちゃんに一体どんな無体を……」
「うっせーな!言っとくけどお前らが想像するようなことは何もねェよ!!」
「それはそれでどうなんだよい」
もうヤダお前ら嫌い!と机に伏せ喚くエースを生暖かい目で見下ろしながら、年長組は末っ子を挟んで目を見合わせる。