第68章 降り積もる” ”
「……おい、水琴?」
反応がないことにエースの声が陰りを持つ。
それでも顔を上げない水琴に、頭上で慌てる気配がした。
「わ、悪ィ。やり過ぎた。ここまでするつもりは、あー、その」
がしがしと頭を掻き謝罪の言葉を紡ぐエースに首を振る。
「違う……怒ってるんじゃ、なくて」
恥ずかしいだけ、と顔を埋めたまま付け加える。
自分では見えないので定かではないが、きっと今水琴の顔は首元まで真っ赤に染まっていることだろう。
水琴の反応に狼狽えていたエースはピタリと止まる。
そしてふはっ、と笑いを零すと両手で水琴の頬を挟んだ。
ゆっくりと持ち上げられ、水琴は抵抗もせず赤い顔でエースを見上げる。
恥ずかしさを誤魔化すように憮然とした表情を取るものの、涙で潤む瞳や上気する顔色で水琴の努力は全く意味を為していなかった。
「先走って、悪かった」
優しい、愛しいものを見る目でエースが見つめる。
「まずはこれからな」
ちゅ、と唇に触れるだけのキスを落とされる。
先程とは違いすぐに離れていくと、強い力でぎゅっと抱きしめられた。
「水琴……好きだ」
「うん………」
身を包む温もりに、穏やかな気持ちとはまた別の、心を震わせる感情が脈打つのを感じる。
気付いてしまえば簡単なのに、どうしてこんなにも分からなかったんだろう。
泉は見えず、積もりに積もった小石が山となり、そうしてまた別のものを形づくる。
気が付かないうちに降り積もったそれは、想いの欠片。
「__好きだよ、エース」
抱く力が強くなる。応えるように、水琴はその背に腕を回した。