第11章 現実
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目が覚めれば自室だった。
いつの間にか血だらけだった服も清潔な物に代えられている。
先ほどの戦闘が夢だったかのように穏やかな時間が戻っていた。
「夢じゃ、ないんだよね…」
倒れた時に打った身体の痛みが小さく残っている。
同時に血塗れのサッチの姿を思い出し、震える身体を抱きしめる。
ようやく、分かった。
漫画と異なる世界だという、本当の意味を。
なんでティーチがいなければ安全だと思ったのだろう。
この世界は、海賊というものは、常に死と隣り合わせなのだ。
漫画ではない。
___この世界は、現実なのだ。
トントン。
控えめにドアがノックされた。
「水琴、起きたかよい」
ドアの向こうから聞こえてきたマルコの声に「どうぞ」と小さく応える。
「何しけた面してんだよい。お前のおかげで爆弾も無事阻止できた。もっと景気の良い顔しやがれ」
「だ、だって…私のせいで、サッチさんが……」
入ってきたマルコの顔を見て更に涙腺が緩む。
そんな水琴の様子を見てマルコは呆れたように溜息を吐いた。
「…何を勘違いしてんのか知らねェが、サッチは無事だよい」
「だって、あんなに血が…」
「米神を銃弾が掠ったからな、出血は多いが傷は大したことねェよい」
「でも、すごくぐったりしてて反応もなくて…身体も冷たくなってて…」
「霧の中で戦ってりゃ身体も冷えるだろい。ぐったりしてたのは脳震盪だ。うっかり頭ぶつけて気絶しただけだよい」
「……え、え?」
淡々と説明していくマルコに気持ちもようやく落ち着いてくる。
つまり、サッチは……
「生きてる…んですか?」
「さっきからそう言ってるだろい。目が覚めて今はぴんぴんしてやがるよい」
「水琴ちゃーん!大丈夫?痣とかできてない?!」
冷静なマルコの後ろからサッチがぶんぶんと手を振っている。
若干うんざりしたマルコの表情と満面の笑みのサッチを交互に見つめること数秒。
「…サッチさーーん!」
がばぁ!!とマルコの横を走り抜けコック服にタックルする。
水琴渾身のタックルもあっさり受け止める力強さに無事だということをようやく実感する。