第11章 現実
「ナミュール!」
「任せろ!」
マルコの呼び声にナミュールが甲板から飛び降りる。魚人族の彼ならば問題なく解決してくれるだろう。
「お前は早く船内に戻れよい!」
マルコの言葉にこくこくと頷く。
役目は果たした。そこまで敵はいないとはいえ、このまま留まっていれば格好の標的だ。
そこかしこから聞こえてくる銃声や剣撃の音に腰が抜けていないのを褒めてやりたい。
船室へ続くドアへ駆け寄る。
「水琴ちゃん、危ない!!」
一瞬何が起こったのか分からなかった。衝撃と、揺れる視界。
気が付けば水琴は誰かに抱きしめられ甲板に倒れ込んでいた。
白い服が、赤く染まる。
「………え」
この服は、誰だっけ。
誰かなんてすぐに分かる。私のことをちゃん付けで呼ぶ人なんて、この船には一人しかいない。
分かっているのに、認識が追い付かない。
「サッチ!!!」
「おい、早く運べ!」
「水琴、しっかりしろ!!」
クルーの声が遠くから聞こえる。
足が動かない。サッチの身体をつかむ腕が震える。
なんでこんなに冷たいのだろう。
どうしてこんなに赤いのだろう。
動けない水琴を誰かが無理矢理サッチから引き剥がす。
ぐったりとサッチは反応しない。
その姿を見て、水琴の中で初めて恐怖が生まれた。
「おい、水琴!」
「っやだ、やだぁ!!」
どうして、サッチが。
彼はここで死ぬ運命ではないはずなのに。
でも、目の前で赤く染まっているのは間違いなくサッチで。
冷たくなっていく身体や弱い息遣いからは、“死”しか感じられなくて。
「…っ、水琴、悪い」
小さな呟きと、首に衝撃。
そこからの記憶はない。