第67章 向き合う心
「__最後に、一応忠告しといてやる」
意外にも水琴を呼び止める声に水琴は立ち止まり振り返る。
「お前、出血には気を付けろ」
「?うん……」
「お前の血液型はこの世界じゃ唯一無二だ。もし輸血を必要とするような出血が起これば命はないと思え」
「あぁそうか。分かった、気を付けるよ」
そういう事かと納得するが、そんな大怪我を負うような事態には早々ならないだろう。
だが忠告はありがたく受け取っておき、水琴は礼を言う。
そんな水琴の様子に分かってねぇな、とローは半眼で睨む。
「たとえば、お前がこの先子をもうけたとする」
「__は?」
いきなりの例えに思考が停止する水琴。
いいから聞け、とローは例え話を続ける。
「出産は母体にかなり負担がかかる。多量の出血も当たり前だ。医療環境が整っている場であればいいが、お前の場合は輸血すら満足にできねぇ。多量の出血がそのまま死に直結するんだ」
ようやくローの言いたいことを理解する。
海賊に襲われるとか、事故に巻き込まれるとか、そういった不意に起こる不運からくる危険ではない。
水琴のこの先、日常の至る所に死の危険は潜んでいるのだと突きつけた。
「命綱の用意はしておくんだな」
「__うん、そうだね」
「……何がおかしい」
「え?ううん……別に」
思わず綻んでしまう表情を隠さず、水琴はローへと笑いかける。
「優しいんだね、ありがとう」
そう告げればローは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「医者としての最後のお節介だ。この先海で出会った時は一切容赦しねぇ」
「そうだね。でもこっちだって早々簡単にやられたりはしないよ」
またいつか、と水琴は今度こそ船を降りる。
できれば、次に相見える時は敵としてではなく、別の形がいいと願いながら。