第67章 向き合う心
二日後、水琴が船を訪ねればベポに埋まるように倒れている船長の姿が目に入った。
修羅場開け、という言葉が何故か水琴の脳裏をよぎる。
「生きてる?」
「何とかな……」
「これに体力回復する作用もあればいいのにね」
残念だが傷や病を治す力はあっても消耗した体力の回復はまた別らしい。
極端な話死ぬほどのダメージを受けたら傷は綺麗に治ってもショック死する可能性はあるということだ。
今まで万能薬という言葉で曖昧にしてきたが、こう考えるとそこまで全知全能の代物と言う訳でもないらしい。
そこまで考え、連想的に引っ張り出された気になっていたことを思い出し水琴はぐったりとしているローの肩をつつく。
「ねぇ、ちなみに悪魔の実の能力が向上するのはなんでなの?」
「お前、この状態でそれを聞くか……」
「だって気になって。あれは一舐めでもすごい威力だったけど、治癒効果とは別?」
「知るか」
「ひどい」
「悪魔の実の能力まで検証する時間なんざあるか。……だが、治癒成分とはまた別のものが作用していることは確かだな」
ようやく身を起こしたローが完成したワクチンカプセルの詰まった小瓶を揺らす。
「治癒成分だけを抽出したこれだと能力の向上は見られなかった。だから血中の別の成分か、それこそ”血”そのものを悪魔に捧げなければならないか」
「………」
「せいぜい己の飼う悪魔に喰われないよう気を付けるんだな」
ぽん、と小瓶を水琴へと放る。
慌てて水琴はそれを危なっかしくキャッチした。
「そこに島民用のカプセルをまとめてある。持ってけ」
「ペンギン用は?」
「確保してある。これでもうお互いの条件は達成されたろ。あとは不干渉だ」
「分かった。ありがとう」
成分量別に詰められた小瓶を手に取る。
長居するのもローの休息の邪魔になるだろうし、そんな馴れ合いは求めていないだろうと水琴はすぐ船を降りようと踵を返す。