第67章 向き合う心
再び診察室まで戻りいつもの定位置へ着く。
「__閾値についてだが、おおよその当たりはつけた」
早速本題に入るローは夜通し取ったのだろうデータの束をデスクに広げる。
「お前が言ってた魚の話を基にいくつか検証を行った。それで分かったのは、血液量に対して400分の1の量でも十分に効果は発揮されるってことだ」
人間の血液量を知ってるか、と前置きしローが雑紙にすらすらと計算式を書き始める。
「人間の場合は大体体重の13分の1。体重60キロの場合は約4.6リットルだ。その400分の1だから、11.5ミリ。限界値については検証しきれてはいないが、倍の量くらいなら問題は見られなかった」
怪我や病気の程度によってはもっと少なくてもいいとローは付け加える。
「試しに切り傷を作って一滴含んだが、浅い傷はそれでも治った」
針で刺したような深い傷は駄目だったらしい。
「ただあくまでこれは血液の量だ。お前の血中に含まれる治癒成分はもっと少ない。回復薬として抽出するなら、一回分は約5ミリってところか」
服用しやすくするならカプセルが一番だが、体重による服用量の違いが出るから適宜調整が必要だなとローはまとめる。
「さっそくワクチンを作る。感染者は探らせたところ約500人。体重の違いでいくつかパターンを作る。今日は少し多めに血を抜くぞ」
「分かった」
いつもより長い時間をかけて献血を行う。
「だが、お前どうするつもりだ」
待ち時間の間、ローが診察台に寝転ぶ水琴を見下ろし尋ねる。
「海賊や見ず知らずの余所者が持ってきた薬なぞ普通ほいほいと使わねぇぞ。医者の友達でもいるってのか」
「それに関しては、考えがあるから大丈夫」
なら任せた、とローはあまり深くは突っ込まず話を終わらす。
「まぁ俺は島民がどうなろうと知ったこっちゃねぇ。仲間が回復して出航出来りゃあそれでいい」
「ペンギン、良くなるといいね」
「……誰から聞いた」
「え?シャチが話してたけど」
「あいつ、クルーの情報をペラペラと……」
後で絞めそうな雰囲気に余計なことを言ってしまったかと水琴は内心シャチへと謝罪した。