第67章 向き合う心
せっかく寝ているのを起こすのは忍びない。
また後で出直すかと、水琴は身体を起こす。
シャワー後で寝冷えしないようにと、足元に放り出されていた肌掛けをそっと手に取った。
身体に掛けようとしたところで手首を思い切り掴まれる。
あれ、と思っている間に視界が反転した。
気が付けば背中は寝台に押し付けられており、のしかかるローの影が水琴を覆っていた。
「__随分と呑気だな」
冷めたローの声がすぐ近くで聞こえる。
テンガロンハットのつばを額で持ち上げ覗き込む鋭い視線が水琴を射抜いた。
「男の寝てる部屋には入るなって家族には教えてもらわなかったか」
「えぇ、私もびっくりしてます」
まさか寝起きであんなに俊敏に動くとは思わなかった。
瞬発力といい、まるで猫のようだ。
「余裕じゃねぇか。今ここで喰われても文句は言えねぇぞ」
「大人しく喰われるつもりは無いんで」
「はっ、火拳屋の女には手を出さねぇとでも思ってんのか」
ここでも出た、今は聞きたくないワードに水琴はやや仏頂面となる。
「__だから、私はエースの女じゃないって言うのに」
「なら、尚更だな」
細められた瞳がぐっと近づく。
さすがにやばいな、と水琴は空中へ身体を溶け込ませる。
風となり拘束から抜け出した水琴はドアの近くへと再び現れた。
「__寝ているところ起こされたからって八つ当たりしないでもらえますか」
「……お前も能力者か」
「だてに白ひげの船に乗ってませんよ」
ふーっと長いため息を吐きローがベッドから立ち上がる。
帽子を被るのを見て水琴は出直そうと思っていたことを思い出した。
「疲れてるならまた後で来ようか?」
「いい。目も冴えた。面倒ごとは一気に終わらせたい」