第67章 向き合う心
一瞬、なんでこれを渡すのか聞こうと思った。
だけどもしそれでシャチの言うように牽制だと言われたら?
もしくは、全くの見当違いだったら?
どちらの答えが返ってきたとしても、どう反応すればいいのか分からないくらい今の水琴は混乱していて。
このような状態でやぶ蛇をつついたって良い結果など生まれるはずもない。
そう自身に言い訳をし、水琴はあえて触れない選択を取った。
(いいよね、別に……。)
だってエースから何か言われた訳では無い。
ただ、持っとけと。それだけだ。
それ以上の意味などない。
そう、ないのだ。
深く思考に沈みこんでいた水琴は突如口元に触れた熱に飛び跳ねる。
「あっっっつ!!!」
「あれ、まだ熱かったか?」
「熱いよ!何すんの!!」
「悪ィ悪ィ。難しい顔してっから腹減ってんのかと思って」
美味いぞ、これと笑顔で魚にかぶりつくエースはいつものエースだ。
なんだかその表情に毒気を抜かれ、水琴は肩の力を抜き座り直す。
「一本ちょうだい」
「ほらよ」
差し出された魚を口に運ぶ。今度はちょうどいい温度で、すぐにかぶりつくことが出来た。
ほわりと湯気と共に海の匂いが鼻孔をくすぐる。
「美味しい……」
「果物もあるぞ」
「食べる!」
すっかりいつもの調子を取り戻した水琴はあっという間に完食してしまうのであった。