第67章 向き合う心
「お疲れ様。仕事中?」
「設備の点検。いつでも出航できるようにしとかないとだしな」
「大変だね」
ところでさ、とシャチがひそひそ話をするよう顔を寄せる。
「あんた、火拳の女なわけ?」
「__は」
一瞬言われた内容に思考が追いつかずポカンとしてしまう。
「いやだってよ、二人で白ひげの船離れてるわけだろ?」
「ち、違う違う!これは事故で私がこっちまで飛ばされちゃったのを迎えに来てくれただけで、たまたまって言うか!」
「へー」
「そのあまり信じてない感」
「だってその格好で言われてもな」
それ、と指さされたのは昨日と同じく被せられたエースのテンガロンハット。
「どう見ても牽制だろ」
シャチの言葉に目を丸くする。
そういう考えは思い付かなかった。
「あんた鈍いって言われねぇ?」
「いや、そんなことは……」
これでも人の感情の機微には聡い方だ。
そう何回もあったことは無いが、元の世界でも下心あり気で近づく人は何となく分かるのでやんわりと避けてきたし、見聞色の覇気に目覚めてからは何となく感情も読めるようになった。
エースのこれも過保護の範疇と思っていたけど、第三者からはそう見えている?
「あー、うん。なんか悪かった」
固まってしまった水琴を見てシャチがポンと肩を叩く。
これからエースと顔を合わせなければならないのになんてこと言うんだ。
***
それから、どうやって別れて帰ってきたのかよく覚えていない。
気が付けばエースが作った即席拠点へと戻ってきていた。
「おかえり」
今日はどうやら魚のようだ。香ばしい良い匂いが辺りに立ちこめている。
「ただいま……これ」
「おう」
預かっていたテンガロンハットをエースへと返す。被り直すエースをまじまじと見つめた。
「なんだよ」
「……ううん。なんでも」