第67章 向き合う心
「こちらからは必要な検体の提供、そちらからは完成したワクチンの提供。明らかになった情報は共有する。このような条件でいかがでしょうか」
「………」
ローはしばし考え込むように沈黙する。
「__ひとつ聞く。なぜ俺にその話を持ちかけた?」
最後の確認とばかりに、ローはひとつの疑問を提示する。
「お前の”知りたい”という言い分は理解できる。だが別にここで急ぐ必要性はないはずだ。それこそ、お前らの信頼のおける船医に任せればいい」
「もちろん、それがおそらくベストなんですけど」
苦笑し、傍らのエースの様子を伺う。
一応大人しくはしてくれているが、納得していない空気をありありとさらけ出していた。
「うち、結構過保護なので」
我らが船医、ドクに頼んだとしても、何だかんだで言いくるめられしてはくれないだろう。
異世界の民の血肉について明らかにすることは、すなわち水琴を切り売りすることにも繋がってくる。
道具としての使い方を知ってしまえば、水琴はきっと、有事の際躊躇なく自分を差し出すだろう。
それを、家族は良しとしないのだ。
「でも、あなたは違うでしょう」
なんの関わりもない、別の海賊であるローだからこそ。
「あなたは感情を切り離して、見てくれる。”異世界の民”とは何か、明らかにしてくれる」
違いますか、と目を見返す。
気が付けば殺気は消え去っていた。
「分かった。その条件、呑んでやる」
色良い返事に水琴も無意識に張りつめていた意識をほっと緩ませた。
「今から診察がある。そうだな……二時間後、俺たちの船に来い」
「分かりました。ではまた二時間後、にっ?!」
横から強く腕を引かれたたらを踏む。
「ちょっと来い」
あ、やっぱり怒ってる。
その声音からエースの機嫌がだいぶ悪いことを察知した水琴は大人しくエースについて行く。
「じゃ、じゃあロー!また二時間後!」
敬語を取り繕う余裕すらなく、なんとかそれだけ伝え水琴はエースと森の奥へ消えた。