第66章 とある発明家の話
夕刻。
屋敷を訪れた海兵は予想していた報告に、それでも顔を顰めるのを止めることは出来なかった。
「いや、申し訳ない。厳重に閉じ込めていたつもりが、いつの間にか牢を破られていて」
「いえ。奴らは悪魔の実の能力者です。海楼石の牢でもない限り閉じ込めておくのは至難の業でしょう。何か被害はありませんか?」
「被害、ですか」
当主は傍らに立つリオと一瞬目を合わせる。
玄関からそう遠くない応接間では、まだ先程の惨状の名残を示す空き瓶が所狭しと転がっている。
「えぇ、幸いなことに。被害は何も」
ゆったりと微笑み、当主はリオの肩を抱いた。
風を切り小型船が海を往く。
「早いねー。もう島見えないよ」
「随分と距離が稼げそうだな。いやー儲けた。お、これ美味いな」
「……ねぇ。それ親父さんたちにって貰ったやつだからね?全部飲んじゃダメだからね?」
「うん、こっちもイケんな」
「ねぇ話聞いてる?ねぇ」
「お前が美味そうに飲んでるのが悪い」
倉庫いっぱいに占める酒瓶を前に、二人は攻防を繰り広げる。
親子の絆と海賊の手で生まれた不思議な船は、荒波にも負けず偉大なる海を駆けていく。