第66章 とある発明家の話
結果は推して知るべし。
「これおいしー!」
「なんだコイツ……」
「ば、化け物……」
「名のある酒豪を沈没させてきた銘酒を、一気だと……っ?!」
ここでは興も削がれると案内された応接間には死屍累々と横たわる犠牲者と、一升瓶片手に満面の笑みを浮かべる水琴がいた。
唖然と見つめるリオと当主の横でエースは重いため息を吐く。
「ここのお酒、ずっと気になってたんだよね。リオもいるから堂々と昼から飲むのもどうかなって我慢してたけど、やっぱり美味しいね!自分用に買っていこうかな」
「……お前、目的忘れてねェ?」
「忘れてないよ?でも勝負とはいえ、美味しく飲んであげないとお酒に失礼じゃない」
既に相手がいないにもかかわらず飲み続ける水琴からエースがグラスを奪う。
あぁ!と心底悲しそうに嘆くがエースは容赦なく酒を回収していく。
「ふ、ふふふ……」
目の前の惨状を呆然と眺めていたリオは横から漏れた笑い声に父親を見上げた。
いつも平静としていて、紳士的な表情を崩さない父が、肩を震わせ笑っている。
「ふふ、まさか、こんな結果になろうとは。一般的に男性より女性の方がアルコール分解機能は低いと言われている。小柄な女性と、強い要素は一つも見当たらないのに、この島の猛者が揃いも揃ってこの有様とは。本当にまったく……っ」
「あ、あの、父さん……?」
いかん、スイッチが入った。
「これだから現実は面白い。知識も、経験も、一切をひっくり返してしまう一粒の原石が、あちらこちらに散らばっているのだから」
落ち着きを取り戻した父は背筋を伸ばし顔を上げる。