第11章 現実
井戸から“ONEPIECE"の世界へトリップし、白ひげ海賊団に転がりこんでから一ヶ月が経過した。
最初の頃は慣れないことが多く大変だったが今では大分コツもつかんできて、忙しくない時には航海士の部屋にお邪魔して海図や世界情勢を教えてもらったり、この世界の文字の勉強をしたりなど充実した毎日を送っている。
そうして少しずつこの世界に馴染んでいた水琴だったが、最近あることに気付いた。
「…いないよね、ティーチ」
自室のベッドに転がりながらぽつりと呟く。
最初は何か所用で船を離れているのだと思っていたが、そんな様子もない。エースにそれとなく聞いてみたが、どうやら二番隊には所属していないようだ。
まだ入団していないのだろうか?
だが水琴の記憶では、ティーチは古株で少なくともエースよりかは先輩だったはず。
なんでかは知らないが、どうやらこの世界はあの漫画とは微妙に異なるらしい。
しかしそれは水琴にとっては嬉しい事実だ。
なぜならティーチがいないのであればサッチが殺されることもなく、ティーチを追ってエースがグランドラインを逆走することもなく、結果としてあの戦争も起こることがないからだ。
この世界に来てからずっと気になっていたことがひとまず大丈夫だと分かりほっと胸をなで下ろす。
「水琴ー。腹減ったし食堂でなんか食わねェ?」
「あ、行きまーす」
ようやく書類から解放されたのか、疲れた様子でエースが顔を出す。
ベッドから飛び降りエースと並んで食堂へ向かう。
「ったくよォ、別に誤字くらいいいじゃねェかマルコの野郎…」
長時間机に向っていて疲れた肩を回す。
この世界にはパソコンなんて無いから、一文字間違えただけで全て書き直しになるのは辛いだろう。
おまけに書き直しても更に誤字が見つかればもう一枚、もう一枚とどんどん増える。
「海賊ってそういうのとは無縁と思ってたから、なんだか意外です」
「まー普通の海賊じゃ必要ないだろうけどよ、白ひげ海賊団は規模が違うし、傘下の奴らの報告もまとめたりするからなァ…」