第10章 想いのある場所
「まぁ夕陽もなかなかのもんだが。本当に凄いのはこれからよ」
よく見てな、とサッチは夕日の方を指さした。
その先で夕日はじわじわと海を赤く染めていく。もう半分ほど日が沈み込んだ時、海に映る揺らぐ陽の中に何かが見えた。
影だと思ったそれは段々と数を増し船の周囲にも現れる。
「え……?!」
赤が揺らめく世界にキラキラと光るものがあった。
それは暗い海の中を赤に黄色にと様々な色に光りたゆたっている。
「サッチさん、あれは?」
「夜光虫って知ってるか?普通のやつらは青白く光るだけだが、新世界のは特別でね。あんな風に七色に光るんだ」
特定の海域で、快晴の日没にしか見られないらしい。
その特性から学者の間では『海の宝石』と言われているそうだ。
「すごい、綺麗……」
恐らく普通に生きていたら見ることも、知ることもなかっただろう。
七色の光は海中だけでは飽き足らず海面付近にもふわりふわりと漂い始める。
まるで妖精が踊っているような光景に水琴はしばし言葉を忘れた。
「…今日一日元気がなかったから。水琴ちゃんに見せてあげたくってさ」
気に入った?とのサッチの問いにこくこくと頷き応える。
「こんなに素敵な光景見たの初めてです!」
「そりゃ何より」
満足げに笑うサッチに、あぁ心配掛けてしまったと申し訳ない気持ちになる。
「急に異世界に来ちゃって戸惑ってるかもしれないけどさ。この世界にも、良いものがいっぱいあるって知ってほしくて」
「サッチさん…」
彼らの心遣いが嬉しい。
今日一日夢の事を引きずっていた自分が恥ずかしくなる。
そうだ。
確かにこの世界にはシスターも、兄弟たちもいない。
でも、大丈夫だと自然と思えた。
だって、こんなにも優しく強い彼らが一緒にいるのだから。
夕陽が沈みきるまで。
水琴はずっと海を眺めていた。