第66章 とある発明家の話
「鉱石自体はこの島にはありふれてるんだ。加工だって面倒だけど、一度すれば後は必要ない。あと一歩だってのにさー!」
「へー。じゃあおれ達の船にも取り付けられるのか?」
「完成すればな。だけど金属加工がなぁ…」
「具体的に何をどうしたいんだ?」
「複数の金属を液状にまで溶かして合金にしたいんだ。だけどオレの持ってる器材じゃそこまでの温度は出せない」
「なるほど。溶かせばいいんだな」
面白いことを思いついたという具合にエースがにやりと笑う。
「エース、もしかして…」
「ちょっと離れてろよ。危ないから」
「何が?」
分かっていないリオの手を引き水琴は避難する。
十分に距離を取ったことを確認したエースは転がっていた金属の容器を手に取った。
掌にいつもよりも温度の高い青い炎が生まれ容器を包む。
頬を撫でる熱風は一瞬で消え去り、一拍置いた後、容器はどろりと形を失い地に零れた。
「あ、やっべ入れ物用意してなかった」
「と、溶けた…?」
目の前で起こったことが信じられないといった様子でリオが呟く。
「あんた、悪魔の実の能力者だったのか…」
「まァな」
「しかも炎!炎でエースって、まさか”火拳”か!」
「あ、知ってる?」
「おれも有名になったもんだ」
「じゃあ水琴も…?」
「うん。黙っててごめんね?」
はぁぁぁ、と深い溜息を零す様子に申し訳なくなる。
どうやら余所の海賊ではなく彼の平穏をぶち壊してしまったようだ。