第66章 とある発明家の話
「どこでつまづいてんだ?」
「海水から液体燃料を抽出する理論は確立してるんだけど、それを実用化しようとすると膨大な熱エネルギーが必要なんだ。それ自体はコイツでどうにかなるんだけど、問題は抽出の際に生じるエネルギーに容器の方が耐えきれなくて爆発するんだよな。もうちょっと強度を上げたいところなんだけど今の環境じゃ難しくて…」
これ、と言いながらリオが拳大ほどの鉱石をエースへ放る。
受け取ったエースの手元を覗き込むと黒々とした石がきらりと光った。
「この島で採れる鉱石なんだけど、とある加工をすると膨大なエネルギーを放出するんだ。一度使うとしばらくはクーリングダウンする必要があるけど、それがあれば大体のエネルギー問題は片付く。そうだってのにアイツらときたら…」
愚痴るように零す言葉に彼が抱える問題の一端を見る。
今まであまり触れずにいたが、どうやらリオが一人で作業をしている事情にも繋がるようだ。
「こっちの港からこの島に上陸したなら、ここの海岸に暗礁が多いのは知ってるだろ?あれのせいで大きな船はもとより、小さな船もなかなか安全に沖へ出られないんだ。だから自然とここの産業は浅瀬での漁に限られる。それでも良質なウニとかサザエとかが採れるし、特産品の酒もあるからある程度生計は立てられるんだけど、あっちの港町まで運ぼうとするとやっぱり大変でさ」
向こう側まで運ぶには中央の山を抜けていかなければならない。
山には獣がいるため、腕に覚えのない者は護衛を雇う必要がある。
そうすれば人件費がかかり、利益は思ったように上がらない。
「この液体燃料が実用化されれば、風に左右されずに船を自由に操作できる。そうすれば暗礁だって小型船で無事に抜けられる。海路が確立すれば町民にとっても利益になるっていうのに…」
口ぶりから何度も門前払いを喰らっているのだろう。リオには同情するが社会はそう甘くはない。
まだ実用化の目途の立っていない研究にお金をかける余裕などないのだろう。