第10章 想いのある場所
「む、無理です無理です!あんなとこまで行く前に確実に落ちます!死にます!」
「大丈夫だって。俺がいるし」
「それにサッチさんの仕事の邪魔するわけにはっ!」
「まだ時間あるから大丈夫だって」
「いや…でも……」
心が揺れているのが分かる。
興味はあるんだろう。ちらちらとマストの方を見ている。
しかし、風で揺れるロープに目を移し、残念そうに目を伏せた。
「…やっぱり、やめておきます。うまく上れなくてサッチさんにご迷惑掛けるわけにはいかないので」
連れて行ってほしい、と一言言えばいいだけなのに。
彼女は決してそうしない。
無意識なのか、それが向こうでは普通なのか。俺からしたらもっと自分の意見を言っていいと思うが、彼女の生き方を捻じ曲げようとは思わない。
「んー、じゃあこうならどうだ?」
目を伏せてしまった水琴の身体を持ち上げる。
急に高くなった視界に水琴が目を白黒とさせた。
「はっ?!え?!」
「俺が水琴ちゃん連れてくからさ。これなら足踏み外す心配ないっしょ?」
「いや、これはこれで問題ですって!私重いから危ないですよサッチさん!」
「水琴ちゃんよりも重い樽とか砲弾とか運んでるから大丈夫大丈夫」
困惑する水琴をよそにサッチは軽々とロープを上っていく。
踏み込むことは出来なくても。
他の方法で力になれることはたくさんある。
サッチはギュッとしがみついてくる水琴の身体を安心させるように抱きしめた。
***
「ほら、ついたよ」
とん、と硬い地面に降ろされる。恐る恐る顔を挙げれば、
「う、わぁ……」
広がるのは、延々と広がる水平線。
何も遮るものがない見張り台からは、海が緩やかに弧を描くのがよく見えた。
「水琴ちゃん、ちょっとこっち」
先程までの恐怖を忘れ見入っているとサッチが手招きする。
指さす方を見れば、ちょうど太陽が沈んでいくところだった。
「わぁ、夕陽ですね。私この前朝日見たんですけど、やっぱり綺麗ですよね」
赤く照らされる空と海を見ながら水琴は感嘆の声を上げる。