第66章 とある発明家の話
船造りは順調に進んだ。
重い資材はエースが率先して運んでくれるので運搬の上で困ることはないし、リオの指示は十四歳とは思えないほど的確で作業の無駄もない。
心配だったのは資金だが、何かの時の為にと持たせてくれていた宝石類が良い値で売れたのでとりあえずは安心だ。
この調子でいけば船も無事に完成するだろう。
順調すぎる流れに不安を覚えるほどだ。
アラバスタでは色々あったからなぁ…と既に懐かしさを感じる彼らとの冒険に想いを馳せながら、水琴はサンドイッチを頬張る。
ボンッ!!
最近恒例となった爆発音が響き、水琴とエースはまたかと呆れながら後ろを振り返った。
視線の先では黒い煙幕が上がり、その傍では防護服に身を包んだリオがひっくり返っている。
最初こそ心配したものの、何度も繰り返されるそれに水琴も生暖かい視線を向けるだけとなってしまった。慣れって怖い。
「大丈夫?」
「っあーー!また失敗した!」
申し訳程度に声を掛ければ勢いよくリオが起き上がる。
「やっぱり強度の問題か…?でもこれ以上はオレの持ってる器具じゃ難しいし…」
爆発に晒された直後だというのにぶつぶつと実験について考え込むリオにおーいとエースが話しかける。
「休憩時間に何をするにも自由だけどな、せめて飯くらいは食えよ。ぶっ倒れるぞ」
「サンドイッチ美味しいよ」
「……んむ」
目の前に差し出されたサンドイッチに食らいつく様はまるでひな鳥のようだ。
ようやく食事をする気になったらしいリオだったがそれでも思考は先程の実験検証に囚われているようで、心ここに在らずといった様子でひたすら口を動かしていた。
「いつも思うんだけど。作業の合間に実験って、疲れない?」
「なんで?いい息抜きになるじゃん」
どうやら発明家というのは実験も息抜きの一つらしい。
絵描きや作家が休憩と称して別の作品を手掛けるのと同じだろうか。
クリエイティブな人間が考える休憩は一般人のそれとは異なるようだ。