第66章 とある発明家の話
「いくらなんでも、海水で機械は動かないんじゃ?」
「もちろんそのままじゃ無理だ。注目するところは海水に含まれる水素と炭酸ガスさ。まず海水をイオン交換でpH6.5以下の酸性にするんだ。そうすると炭酸ガスの溶解度が減って放出されるからそれを減圧蒸留法で抽出する。イオン交換の時に電極から水素も発生してるからそれも抽出して、あとはフィッシャー・トロプシュ合成反応を…」
「ちょ、ちょっと待って。待って」
怒涛のように始まる講義に水琴は待ったをかける。
些細な質問がまさかこのような展開になるとは思わなかった。発明家の熱量を甘く見ていた。
まだ話し足りなさそうなリオを何とか宥めて、話を元に戻す。
「で、どれくらいで出来そうなんだ?」
「基本部分は出来てるからあとはマストと船室かな。実験用に考えてたから部屋とかちゃんとしてないし、長い航海を考えたら水回りやコンロも入れないとだろ」
三日くらいかな、とリオが見当をつける。
「三日かぁ…」
「言っとくけど、反対側の港町に行っても船は注文されてから作るからどんだけ急いでも一月はかかるぞ」
「ならしょうがねェな」
海軍に追われている身としては三日足止めをくらうのは痛いが、背に腹は代えられない。
「よろしくね、リオ君」
「………」
手を差し出せば微妙な顔をされた。
何か気に障ることを言ってしまっただろうか。
「リオでいい」
「分かった、リオ」
どうやら呼び名が気になったらしい。多感な年頃である。
契約完了の握手を結び、こうして臨時船造りチームが誕生した。