第65章 たとえ御旗は異なれど
「__私ね、孤児だったの」
悩み、水琴は初めから話すことに決めた。
この世界を選んだ理由。それを語るには、どれも外せない大事なものだった。
「ある日、施設の前に捨てられてて……本当の両親のことは何一つ分からなくて、持っていたものはただ『水琴』っていう名前だけ」
警察に届けられてもおかしくない中、幸いにも水琴はそのまま施設に保護され、シスターは本当の家族のように水琴に接してくれた。
そのままでも十分に幸せだった。
それでもどこかで、自分は捨てられた子なのだという意識は消えなかった。
血の繋がる親にも捨てられた自分を、大切にしてくれるのだから。
自分よりも、大切な彼らを大事にしよう。
いつも笑って、心配はかけないように。
『良い子』でいるように。
それは無意識に、水琴の心の奥底に沈んでいた自分を縛る鎖。