第65章 たとえ御旗は異なれど
「…ありがとな」
不意にエースが呟いた。
「あいつが船から消えた時、正直焦ったんだ。どっかで一人で泣いてるんじゃないか、心細い思いしてるんじゃないかってな」
しかし、ようやく見つけた水琴は泣いてもいなければ不安で俯いてもいなかった。
温かい“仲間”に囲まれて、笑っていた。
「あいつが笑っていられたのはお前らのおかげだ。親父に代わって礼を言う」
「…それは、俺じゃなくて船長に言うべきじゃねぇか?」
「これを逃すと改まって話す機会なんてなさそうだしな。ルフィには後でよろしく言っといてくれよ」
身体を流し終えエースがゆっくりと風呂に浸かる。
「別に、俺達だけの力じゃねェと思うけどな」
その背に聞こえるかどうかの声で呟く。
思い出す。船の上で、水琴が自分達を時折懐かしそうに眺めていたことを。
何気ない会話の端々で、白ひげクルーのことを楽しそうに語っていたことを。
絶対帰れると、帰ると信じていたから、あんなに楽しそうに笑っていたのだろうと。
ゾロは思うが、口にはしなかった。結局それは本人しか知りえないことだ。
「__おいゾロ」
身体を洗い終え、エースの隣に身体を沈めると静かに名を呼ばれた。
その声から若干殺気を感じ一瞬ぞくりとする。
「…あれ、何してると思う」
問い掛けに視線を上げれば、女湯へと続く壁によじ登っている男性陣多数。
うげっ、とゾロがぴしりと固まる。
「……覗きだな、完全に」
「ほう……?」
すぅ、とエースの目が細まる。
死んだ、とゾロは仲間達へと合掌した。