第64章 それはまるで慈雨の如く
「大丈夫」
凛とした声が耳に届く。
「え……?」
見れば、いつの間にかビビを挟むように壁にもたれて座る影が二つ。
「水琴さん…?エースさんまで」
「遅れてごめんねビビ」
「ちょいときつかったが、何とか間に合ったな」
「二人とも、何を言って…?」
何が間に合ったのだろう。
時計台の爆弾は爆発し、それでも争いは止まらない。
どれだけ声を張りあげようと、もうビビの声は届かない。
「争いは止まるよ」
もうすぐ、みんなが待ちわびたものが訪れる。
疲れた顔で水琴は笑い、天を指差す。
「……ほら、見てビビ」
ぽつり、と冷たい滴がビビの手を打つ。
それを皮切りに、さぁ__と静かに“それ”は降ってきた。
乾いた地面に水が染み込む。
大地に、人に、冷たい雨が降り注ぐ。
国王軍も、反乱軍も、海賊も。
関係なく、皆が空を仰いでいた。
「あ……」
「雨……」
「雨だ、雨が降った…!」
気付けば、剣を交える音も銃撃の音も止んでいた。
「さぁ、ビビ」
水琴の声に意識が戻る。
「後はお前の役目だ。頼むぜ王女様」
エースがにっと笑う。
見下ろせば、全員が時計台のビビを見上げていた。
「ビビ様…」
「ビビ様だ」
「なぜあんな所に…?」
「___みんな、聞いて」
雨で埃が地に落ちる。
透き通った空気のため、ビビの声はよく通った。
「これから、昔のように、雨は降ります」
地に倒れたクロコダイル。
全ての元凶であった男は、もう立ち上がることはない。
「悪夢は全て、終わりましたから」
その後。
三年ぶりに降った雨は止むことを知らず、アラバスタの大地に降り続けた。