第10章 想いのある場所
「水琴の様子が変?」
書類整理をしていたマルコは向かいに座るサッチの言葉に眉を寄せた。
「なんかさー。休憩もろくにせず仕事に励んでるって部下が」
「仕事熱心なのは良いことじゃねェかよい」
「そういう感じでもないんだよな。なんか、鬼気迫るって感じ?」
その様子を聞いていた、同じく椅子に腰かけていたエースがおれやっぱ様子見てこよっかな、と席を立とうとする。
すかさずその頭をマルコが書類で叩いた。
「お前は仕事しろい。ここ訂正しろ」
「はァ?!またかよ!いい加減にしろよっ!」
「そりゃ俺の台詞だよい!書類ぐらい一発で書きやがれ!」
本日三枚目の提出になる書類をぐしゃぐしゃと丸める。
あーあ、あんな風にしちゃって。相当焦ってんな。
「そんじゃ、俺行くわ」
再び書類と格闘するエースを残し席を立つ。
マルコの部屋を出て、サッチは甲板へと向かった。
動けない末っ子の代わりに水琴の様子を見て来てやろうと思ったのだ。俺って優しい!
まぁ、俺自身が気になってるっていうのもあるが。
水琴ちゃんから日常を奪ってしまった要因となったことを、エースと俺はかなり気にしていた。
水琴ちゃんは気にしなくていいと言うが、はいそうですかと割り切れるものでもない。
文句ひとつ言わず、この状況を受け入れて馴染もうとしている健気な姿を見ていると、感心を通り越していっそ痛々しいと思えてくる。
そんな彼女が珍しく見せた、弱気な態度。
力になれるならなってやりたい、とサッチは水琴の姿を捜した。
しかしどこを捜しても水琴の姿は見つからない。
「どこ行ったんだ?」
ふと見張り台へのロープが目に入る。
そういや今日見張り当番だったな。
準備するついでに上から眺めたら水琴も見つかるだろうと必要なものを用意しするするとサッチは見張り台へと上った。
毛布や水筒など用意しざっと周囲を見渡す。
すると、甲板の端で見慣れた後姿が一人佇んでいた。
「おーい、水琴ちゃん!」
あの細い背中は水琴ちゃんだ、と声を掛ける。
しかし考え事でもしているのか、水琴は反応を示さない。