第10章 想いのある場所
暖かい陽が降り注ぐ。
柔らかな緑が溢れる庭で、子どもたちが楽しそうに走り回っている。
その様子を微笑ましく見つめる老齢の女性。
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女性がこっちを振り向き、何かを呟く。
その言葉は何故か聞こえなくて。
よく聞こうと耳を澄ますが、段々と眩しくなる視界に全てが白く塗りつぶされてしまい。
__水琴。
最後に微かに、懐かしい声が聞こえた気がした。
がやがやといつも通り賑やかなモビーディック号の食堂。
心ここに非ずといった様子で水琴はプレートをつついている。
「どうした水琴。元気ないな」
「ジョズさん…」
背後からかかる声にゆっくりと振り向きおはようございます、と挨拶する。
「ちょっと夢見が悪くて…」
「疲れてるんだろう。あまり無理するなよ」
「はい、ありがとうございます」
心配してくれるジョズに礼を言い、再び水琴はプレートをつつく。
そして小さく溜息をついた。
思い出すのは夢の事。
ジョズには夢見が悪いと言ったが、悪夢かと言われればそうではない。
どちらかと言えば、幸せな夢だと思う。
けれど、だからこそ今の水琴にとってその夢はかなりの衝撃を与えた。
つまりはホームシックだ。
「弱ってるなぁ、私…」
この船での生活にも慣れ、余裕が出てきたのだろう。
今まで一度も見なかった元の世界での生活を思い出し、胸が詰まる思いがした。
起きた時濡れていた頬をそっと擦る。
あまり弱った顔をしていても、みんなを心配させるだけだと水琴は気持ちにふたをする。
なるべく考えないようにしながら、水琴は朝食をたいらげ仕事へと向かった。