第64章 それはまるで慈雨の如く
「おれは”海賊王”になる男だ」
ルフィの言葉にクロコダイルは足を止める。
その言葉がどんな意味を持つのか、クロコダイルはよく知っていた。
「……っいいか小僧。この海をより深く知る者程そういう軽はずみな発言はしねェモンさ。
言ったハズだぞ。てめェの様なルーキーなんざこの海にゃいくらでもいるとな」
二十年前。世を大航海時代に駆り立てたある男が持つ称号。
誰もがそれを目指し偉大な海を渡り、そして誰もがそのあまりの道の難解さに沈んでいく。
沈まずにこの海にいるものは、”目指していない者”か”諦めた者”だけだ。
「この海のレベルを知れば知る程にそんな夢は見れなくなるのさ!」
再び毒針を振るいルフィへと迫る。ルフィは重心をずらすとそれを紙一重で避け、片足を高く上げるとすぐ側を通るクロコダイルの腕に向かい振り下ろした。
体重を掛け鉤爪を踏み折る。
__おれは先に行くが、待ってはやらねェ
__お前が早く追いついてこい
久しぶりに会った兄はまた強くなっていて。
目指す背はまだずっと遠い。
だから、こんなところで足踏みしている場合では無いのだ。
「おれは……お前を、越える男だ……!」
強く。
もっと強く。
いつかあの背に追いつき、追い抜かすくらい。