第64章 それはまるで慈雨の如く
そんなビビの背後に影が差す。
ばさりと響いた翼の音にビビは顔を上げた。
「__懐かしい場所ですね。砂砂団の秘密基地。
まったくあなたの破天荒な行動には毎度手を焼かされっぱなしで」
「ペル……」
現れたペルは直径五キロを吹き飛ばす砲弾を前にしているとは思えないほど穏やかな顔でビビにそう語りかけた。
「ペル聞いて!砲弾が時限式で、今にも爆発しちゃいそうなの!」
どうすればいいのか分からない。それでもビビは最後まであがこうとペルへ現状を伝えた。
光の消えないビビの瞳をそっと見つめ、ペルの意識はしばし過去へと飛ぶ。
あれはまだビビが十にも満たない年頃の頃。
ペルの入隊記念日を祝おうと、立ち入りを禁止されている火薬庫でビビが花火を作ろうとして失敗した日のことだった。
ビビの身を案じて叱ったペルだったが、さすがに女の子の頬を力強く打ったことに罪悪感を感じ、お詫びとしてビビを乗せアルバーナの大空を飛んでいた。
「ねぇペル。なぜ毎日戦いの訓練をするの?」
雄大な自然を眼下に風を受け、ビビは自身を乗せるペルへと問う。
「護衛兵ですから。この国をお守りする為です。強くならなければ」
「誰と戦うの?」
「さァ……戦う事より、守るのです」
ビビには違いがよく分からなかったのか、首を傾げた。
「違うの?」
「目的の違いです」
「ふーん。変なの」
まだ難しそうに眉を寄せる少女にそっと笑いかける。
「__ビビ様」
成長した”守りたいもの”を前に、ペルは最期の役目を果たす為ビビを見る。
「私は、あなた方ネフェルタリ家に仕えられた事を、心より誇らしく思います」
あの日ビビを乗せた巨大な隼はその両足で砲弾を掴み、空へ舞い上がる。
軽いということは無いだろう、その大きさに見合った重量がかかるも、それを感じさせることなくペルは軽々と大空へ舞った。