第64章 それはまるで慈雨の如く
ルフィと別れナミたちと合流し、砲撃を止めるためようやく辿り着いた先、時計台で。
カラン、と音を立てて孔雀一連スラッシャーが地に落ちる。
その先では切断された導火線が燃え尽きるところだった。
砲弾に届く前に灰となり消えたそれにビビは安堵の息を吐く。
その耳に微かな音が届いた。時計台の音にしては小さすぎる。もう聞こえるはずのない、絶望を刻む音。
震える足を叱咤し、ビビは砲弾へと近づき覗き込んだ。
そして、まだ終わりでないことを知る。
砲弾には時計が埋め込まれていた。
秒針は止まることなく時を刻んでいる。
時刻を知らせる針の角度から、恐らくもう一周秒針が回ればこれは爆発するだろう。
__覚えておけ。策というのは二重三重に張るからこそ盤石なものとなる
「クロコダイル……!」
怒りを吐き出すのは後だ。ビビはすぐ時計台から顔を出し下で見守っているだろう仲間たちを探す。
「大変みんな!」
「ビビ!!」
「砲弾が時限式なの!このままだと爆発しちゃう!!」
「んなっ……」
「なんだってぇ~~?!」
あと数十秒。今から避難する時間はない。
取る策が見つからず、ビビはただ砲弾を睨みつけた。
__あーすれば反乱は止まる、こーすれば反乱は止まる
__見苦しくてかなわねェぜ、お前の理想論は
教えてやろうか
お前に国は 救えない
「……っ!!」
怒りのまま、ビビは拳を打ち付ける。
「……ここまで探させておいて…砲撃予告をしておいて……!」
硬い石に遠慮なく打ち付けられた拳の皮膚はあっけなく裂け、血が大砲を濡らした。
「一体どこまで人をバカにすれば気が済むっていうの…!
どこまで人をあざ笑えば気が済むのよっ!!」
時は容赦なく過ぎていく。
けれどビビにはこれ以上何もできなかった。
その時を待ちビビはそこへ蹲る。
どこにいてももう結果は変わらない。
ならば、たとえ一歩でも逃げたくはなかった。