第64章 それはまるで慈雨の如く
自分ではない誰かを常に想い。
争いの先頭に立ち、傷つくことにもなりふり構わず。
ボロボロになりながらも、それでも真っ直ぐに上を向いて踏ん張っている。
__一刻も早くナミさんの病気を治してアラバスタへ。それがこの船の“全速力”でしょう?
__あなたは船長失格よルフィ。ここであなたが暴れたら、ナミさんはどうなるの
人の上に立つということはどういう事か教えてもらった。
__反乱軍も国王軍も!
この国の人たちは誰も悪くないのに!
なぜ誰かが死ななきゃならないの?!
悪いのは全部クロコダイルなのに!
その胸の内に宿る、国を想う気持ちとやり切れない強い怒りを知った。
__アルバーナで!待ってるから!
真っ直ぐな瞳と言葉に込められた、確かな信頼を受け取った。
共に重ねた時間は短くても、”仲間”というには十分で。
「だからあいつが国を諦めねェ限り、おれ達も戦う事をやめねェんだ…!」
「……たとえてめェらが死んでもか」
「死んだときは、それはそれだ」
心臓が一際大きく脈打ち、痛みと共に視界が霞む。
気が付けば膝は崩れ落ち、ルフィは地に伏せていた。
「クハハハハハ……口では偉そうに吠えるも、結局身体は言うことをきかねェか。
いいザマだぜ麦わら」
「ぐぎ、ぎ……」
身体に力が入らない。立ち上がろうともがくルフィにクロコダイルは「このおれに”勝てるかどうか”だ」と両手を広げた。
自分以外立つ者のいない空間にクロコダイルの勝ち誇った声が響く。
「お前がどれ程仲間を想おうと、お前らがおれの計画を阻止する為どれだけ立ち回ろうとも、ここでおれに勝てねェのなら今までてめェらがやってきた”全て”は水の泡だ。
所詮てめェの様な駆け出しの海賊が楯突いていい相手ではなかったのさ…どうしようもねェ事なんざ世の中には腐る程ある……!」
時計の秒針が天を目指し時を刻む。
午後四時半まであと十秒。
「終わりだ」
絶望の宣告が成された。